Vol.9 ワインリコメンドの大切なこと
高額品を買っていただくために必要なのは、信頼、知識、誠意」
以前、高級ブランドのブティックマネージャーから聞きました。レストランではワインがその高額品にあたります。
私はワインをお客様にお勧めするということに、そのまま当てはまると考えています。
お客様がリコメンドに応じてくれるかは、明確に利益(得する)がある場合と、「リコメンドする側に信頼がある」にほかなりません。
信頼を得るために必要なのは、
① 商品知識
② 商品の品質
③ サービス
④ お客様の要望、状況に合った提案
⑤ 担当者の誠意
いずれも重要ですが、知識と品質は一朝一夕ではかないません。特にワインという嗜好品では、自分がまたオーソリティが素晴らしいと太鼓判を押したもので、すべてのお客様がよいと思うとは限りません。
そこでまず注力すべきは「サービス」、「お客様の要望、状況に合った提案」、「誠意」になります。
アイコンタクト、挨拶、身だしなみ
お客様がいらしたら、アイコンタクトとり、きちんと挨拶をする。これだけで、第一印象は大変よいものになります。
また身だしなみも大切です。
身だしなみは以前に比べて、だいぶ緩くなり、髭、長髪、ピアスも珍しくありません。確かに七三分けの慇懃無礼なホテルサービスより、感じが良くて、気の利いたサービスをしてくれる長髪のウエイターを選ぶ方は増えてきています。
でも私はきちんとしたほうがよいと思います。なぜなら「得する」からです。
「真面目そうな人だな」、「誠実そうな人だな」と第一印象で思われると、その後のサービス、提案が非常にスムースに進むものなのです。
わざわざハードルを上げる必要はないと思っています。
お客様に興味をもつ。
愛情の反対は無関心といいます。相手に興味をもつことは信頼を得るうえで欠かせません。
「どんな方かな?」
「どういうオケージョンでいらしたのかな?」
「機嫌がよそそう」
「お疲れのようだな」
お客様に興味をもつことで、対応やサービスは変わってきます。
お客様を観察する。
興味をもったら、次に自然とするのはその人を意識するようになります。もちろん食事をしてるところを観察されたら、気持ち悪いですから、観ていないようで観ている。時には見て見ぬふりも必要ですが。
「ドリンクメニューを手に取った」
「飲むペースがダウンしてる」
「カバンから財布を取り出した」
このようにお客様のふとした仕草、顔の向きや目線、動きを観ていると、お客様が何も望んでいるのか分かるようになります。
観察により認知する。
HUGEでは「リコグニション」呼んでいます。
予測し、準備する
リコグニションの次は、予測「アンティシペイション」です。
「そろそろワインリストを持っていって、次のワインを伺おう」
「お水をお持ちしよう」
「チェック(伝票)の準備をしよう」
「お客様がなにか欲しいとふと顔を上げたときに、それを持っているウエイター」
お客様から信頼される、というのはそういうことだと思います。
「いかに売るかより、いかにお客様にまた来ていただくか?」
ワインはそのためのツールと思うことです。
「1000のワインを知るより、1000人のお客様を知ること」
ソムリエに必要なのは、まずここなのです。
HUGE コーポレートソムリエ
HUGE全店のワインリスト、グラスワインの選定、サービス指導、スタッフ育成を担当。
1969年生まれ。ホテルニューオータニおよびレストラン・ラ・トゥール・ダルジャンにてソムリエ(1990〜2004)、ベージュ・アラン・デュカス東京 支配人を務める(2004〜2010)。
2013年よりフリーに、教育、コンサルティング、執筆活動などソムリエ職の地位と質の向上に努める。2016年東麻布にレストランL’aube開業。
2017年1月 HUGEコーポレートソムリエ就任
第1回(1996年)、第2回(1998)、第7回(2014)最優秀ソムリエコンクール優勝,
2000年世界最優秀ソムリエコンクール3位。
2015年アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール優勝。
2014年内閣府黄綬褒章受章。
著書
『ソムリエが出逢った16の極上ペアリング』東京堂出版(2019年)
『ワインの新スタンダード』世界文化社(2019年)
『10種のぶどうでわかるワイン』日経出版(2013年)