Vol.2 日本ワインをハウスに
「石田さん、ハウスを日本ワインにしたいんだよね」
2017年、私がHUGEコーポレートソムリエ に就任して、まず最初に新川さんから受けたミッションです。いや、これは私の問題というよりも、調達に高い壁が立ちはだかるものでした。
日本ワインへの注目は日々高まり、OIV(世界ブドウ・ワイン機構)にワイン用ブドウ品種として正式認定され、日本のワイン愛好家のみならずアジアを中心に世界から注目されている甲州。
HUGEのハウスワインというと、年間7〜8,000本は必要です。当時、山梨のワイナリーからは「苗木がとにかく足りないんです」とよく聞いていました。「調達できるのだろうか?」、そんな一抹の不安にかられていました。
橋本哲哉さん。私が着任する半年ほど前に大手輸入商社からHUGEに移籍された敏腕バイヤーです。常に冷静で、意気自如という言葉がよく当てはまります。「まるきワインが興味を持っています」と、想定通りといった冷静な姿勢です。早速、二人で勝沼に向かいました。
まるきワイン。歴史あるワイナリーがひしめく勝沼でも、最古の歴史を誇る老舗です。日本に本格的なワイン造りを伝えたとされる土屋龍憲が興した由緒あるワイナリーで、その伝統に甘んじることなく、設備投資にも余念がありません。
我々のためのキュヴェを3種類、ご用意いただきました。
HUGEの料理はメリハリのはっきりしたもの多いので、アロマティックなワインが相応しい。そこで、白ワインは甲州をメインに芳香豊かなデラウェアをブレンドしていただくことになりました。マスカット・ベイリーAには、メルローをブレンドすることで料理と楽しめる、より本格的な味わいの赤ワインを目指しました。
我々としては予期せぬことだったのですが、その後、まるきワインさんは塩尻のブドウ畑を購入。塩尻といえばメルローのグランクリュのような産地。我々のハウスワインにも塩尻のメルローがブレンドされることになったのです。
経営者には「鳥の目、魚の目、虫の目」という三つの目が求められるといいます。スパニッシュ・イタリアンをコンセプトにした「リゴレット」が主たるブランドでありながら、日本ワインをハウスにしようという考えは、新川さんが日本におけるワインシーンを「魚の目」で捉えたからだと理解しています。
ハウスワインには2通りあります。企業間のお付き合いで決まったものと、ワインに対する情熱をもとに決まったもの。
HUGEのハウスワインはもちろん後者です。
HUGE コーポレートソムリエ
HUGE全店のワインリスト、グラスワインの選定、サービス指導、スタッフ育成を担当。
1969年生まれ。ホテルニューオータニおよびレストラン・ラ・トゥール・ダルジャンにてソムリエ(1990〜2004)、ベージュ・アラン・デュカス東京 支配人を務める(2004〜2010)。
2013年よりフリーに、教育、コンサルティング、執筆活動などソムリエ職の地位と質の向上に努める。2016年東麻布にレストランL’aube開業。
2017年1月 HUGEコーポレートソムリエ就任
第1回(1996年)、第2回(1998)、第7回(2014)最優秀ソムリエコンクール優勝,
2000年世界最優秀ソムリエコンクール3位。
2015年アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール優勝。
2014年内閣府黄綬褒章受章。
著書
『ソムリエが出逢った16の極上ペアリング』東京堂出版(2019年)
『ワインの新スタンダード』世界文化社(2019年)
『10種のぶどうでわかるワイン』日経出版(2013年)